実践!生産革新道場:第285回:研修講師の権威を高める手法とは
1:決めた対策を守らせる
私の定期研修では現場で実際に起きている問題を取り上げて、現場で管理者にその対策を協議させることにより、管理者としての能力を向上させて行きます。そのため1回の研修で多くの対策がまとまります。通常の研修であれば対策をまとめて終わりなのですが、私の場合はこの対策を管理者に守らせる必要があります。人間は知識だけでは変わらず、得た知識を実践して初めて能力が向上するからです。私は研修が終了したら次の研修日まで一切、対策のフォローを行いません。電話やメールなどで管理者に進捗状況を確認することはしないし、管理者も進捗の報告はしないルールとなっています。このように私は対策のフォローをしませんが、それでも管理者は研修で決めた対策を守るのです。
2:権力ではなく権威で人を動かす
私は管理者が研修で決めた対策をフォローしないでも守らせるために、自分自身の権威を高めるように努力しています。私は部外者ですから、研修を受ける管理者への人事評価などの権限は持っていません。ですから私は管理者を権限ではなく権威で動かすのです。私は研修講師として管理者に対して自分の権威を高めるために、次の3項目を日々努力しています。
1)プライベートを一切明かさない
私は毎月、約500名のタイ人管理者の指導を行なっていますが、この中で私の名前以外の情報を知っている人は皆無です。私は管理者とは仕事の話以外は一切しないし、相手にも仕事の話以外はさせないからです。研修の初回で管理者から「タイに何年くらい住んでいるのですか」などと聞かれることもありますが、「その質問は仕事に関係あるのか。仕事に関係ない話しはするな」とはっきりと伝えます。休憩時間も管理者と話しをしないし、年末年始の管理者とのパーティーなども出来る限り断っています。私は管理者にプライベートの話しは一切しないし、相手のプライベートも一切聞かないため、管理者も私との人間関係は純粋に仕事のみの付き合いと理解しています。これにより私は相手が近づきにくい雰囲気を醸し出すことができ、これが権威の向上に役だっているのです。
2)常に現場の第一線に立つ
私の研修では現場中心で行いますから、管理者と共に頻繁に現場に移動することになります。現場へ移動する際には先頭を早足で歩くようにしています。常に先頭を早足で歩くことにより、リーダーの立ち位置を確保できるからです。現場によっては高熱の機械が数多く動いている箇所もありますが、この場合でも管理者に「見て来なさい」とは言わず、必ず自分の目で見ています。必要があれば高所でもはしごを使って、自分で登って確認を行います。どのような状況でも常に現場の第一線に立ち、自分の目で確認することを管理者に見せることにより、「この人は本当に問題を解決しようとしている」と相手に思わせて権威を高めるようにしているのです。
3)徹底的な追求を行う
「この対策は実行しているのか。結果はどうか」との質問に、管理者が「現場で実行しており、良い結果も出ています」と答えると相手の表情や声のトーンで「怪しい」と感じることが良くあります。この怪しいとの感じは大概当たっているので、「それでは現場で確認しよう」と管理者を連れて現場に行くことになります。例えば「作業員への教育を行った」との対策であれば、現場で作業標準書、教育記録、対策の指示書、対策後の結果データなどの書類の確認はもちろん、作業員の動きが対策内容と合致しているかをビデオ撮影して確認し、複数の作業員に「誰が、いつ、どのくらいの時間、どのように、何を使って教えたのか」とインタビューを行ない、僅かでもおかしな点があれば、徹底的に管理者を追求します。この徹底的に追求する姿勢を常に見せることにより「この人に嘘を付いたら必ず見破られて怒られる」と思わせることができ、これが権威に繋がって行くのです。