実践!生産革新道場:第330回:生産性向上のために管理者は作業員に問題を認識させろ
1:ロスが発生している時間帯があった
ある工場で納期に追われているラインがありました。管理者は「このラインで生産している製品は納期が逼迫しています。ですから休憩時間も作業員を交代させて動かしているのです」と説明しました。私は現場で生産管理版に掲示してある1時間ごとの目標数量と実績数量を確認したところ、目標を下回っている時間帯が2箇所ありました。「わずかな数量だが、2回ほど目標を下回っている時間帯がある。一体何が原因なのだ」管理者は慌てて班長に聞きに行きましたが、班長も答えることが出来ませんでした。「下回っている数量を時間換算すると、どのぐらいの時間ロスが発生しているのだ」「だいたい5分ぐらいだと思います」「なぜ5本のロスが2回も発生しているのだろう」作業員にも聞いたのですが、納得できる答えを得ることが出来ませんでした。
2:作業員が出歩いていた
私は管理者に「過去1週間分のデータを解析してどの時間にロスが発生しているか今すぐ確認せよ」と指示しました。管理者が持ってきたデータを見ると、毎日ある一定の時間帯に発生していることが分かったのです。そこで管理者と共にこの時間帯に現場で作業の様子を観察しました。しばらくすると台車に液体を積んだ作業員がやってきました。「液体を運んできたが何をするのだ」「あの液体は1日2回交換するルールとなっているのです」「交換の時には作業は中断するのか」「わずかな時間ですし作業の邪魔にならないので、作業は続けたままで交換します」やがて台車を押してきた作業員が作業台の上にある箱に入った液体を台車に積んであるドラム上の容器に入れました。そして空になった箱を作業台の上に置き、新たな液体を入れたのです。時間的にはわずか3分程の作業で作業員も作業を続けたまま行ったので「これなら作業に影響はないな」と思ったのですが、作業員が急に歩いてラインを離れたので驚きました。しばらくすると作業員は手にモップを持って戻って来ました。そして床を拭き始めたのです。よく見ると先程の液体が床にこぼれ落ちており、作業員はその清掃を行っていたのです。清掃を終えた作業員はモップを持って再び歩き出して、モップを片付けてから作業箇所に戻り、作業を開始したのです。
3:作業員に問題を認識させろ
私は関係者を集めて上記の問題点を指摘して現状を確認したところ、下記の問題が判明したのです。
問題点
1:液体は専用容器を使って箱に入れることになっていたが、専用容器が1週間前に破損してしまった。担当者は工場にある別の容器を自分で見つけて、これを使用していた。
2:この容器は形状が悪く、箱に液体を入れる際にこぼれることが多かった。担当者はこぼれる量がわずかなので問題ないと判断してそのまま容器を使用し続けていた。
3:作業員は液体が床にこぼれてしまうと滑りやすくなるので、モップで清掃を行っていた。作業員もこぼれたものは清掃するのが当たり前と考えており、これを問題とは認識していなかった。
上記の問題点が判明すると、管理者は口々に「専用容器が破損したことは知らなかった。報告しない担当者が悪い」「勝手に清掃する作業員が悪い」などと文句を言い始めたのです。私はこれを制して「担当者や作業員は問題と認識していなかったから、報告しなかったのだ。担当者や作業員に液体が床にこぼれてロスが発生することが問題だと認識させる責任者は誰だ」と詰問しました。そして「このラインは納期が逼迫しており、高い生産性を維持しなければならない。そのためには担当者や作業員にムダやロスタイムに付いて教育を行い正しく理解させる必要がある。その教育を行う責任者は誰だ」と厳しく追求したのです。管理者が問題と認識しても、作業員が問題と認識しなかったら、問題の報告は上がってきません。高い生産性を維持するために作業員に「生産を阻害する問題とは何か」を繰り返し教育して、問題を認識させることが必要なのです。