実践!生産革新道場:第347回:生産性のためには暗黙の了解を打ち破れ
1:測定箇所に仕掛り品が溜まっていた
ある工場でラインの出来高が目標数量を下回っているラインがありました。私はラインの課長に「このラインは目標数量を下回っているぞ。この製品は納期がかなり厳しいはずだ。なぜ目標数量に達していないのだ」と質問したところ、「すみません。私も気づきませんでした。特に異常があるとの報告は受けていなかったので、すぐに確認します」と班長を呼び出して状況を確認しました。しかし班長は「作業が難しいからです。新人が多いからです」などとその場で思いついた言い訳を繰り返すばかりで、状況を正確に把握していませんでした。
私は管理者に「ラインのどの工程に仕掛り品が溜まっているかを確認しなさい」と指示しました。すると製品を測定している箇所で仕掛り品が溜まっていることが分かったのです。私は「この測定器は測定時間が決まっているのだから、仕掛り品が溜まるのはおかしいぞ。なぜ溜まっているか説明せよ」と課長と班長に詰問したところ、班長は「私はこの問題を課長に報告してあります」と言い出しました。すると管理者は「何を行っているのだ。私はそんな話は聞いて無いぞ」と言い出したのです。
2:暗黙の了解は徹底的に糾弾せよ
私はまず班長に詳細を説明するように言いました。「この測定器は先週から通常の時間で測定すると、エラーが出るようになったのです。メンテナンスに修理を依頼したところ、修理に2週間掛かるとのことでした。測定時間を長くすると正常に作動するので、修理が完了するまでの暫定処置として測定時間を長くすることにしたのです。このことは課長に報告済みです」
私は課長に「班長がこのように説明しているが、これは事実か」と質問したところ、「思い出しました。先週確かにそのような報告がありました。班長は測定時間を僅かに長くすると言ったので、僅かなら問題ないと判断して許可したのです。しかしこんなに仕掛り品が溜まるとは思いませんでした」と答えたのです。
私は班長と課長の説明を聞いて次のように指摘しました。「暫定処置として測定時間を長くすることはやむを得ないが、これにより生産数量が下がることを考慮せずに生産を続けていたのは問題である」と次の3項目を指摘したのです。
指摘した3項目
1.時間を単位で管理していなかった
時間は秒、分、時間の単位で表すことができます。班長が課長に報告する時に、この時間の単位ではなく、「僅かな時間」と抽象的に表現したため、双方に誤解が生じてしまいました。
2.仕事を増やしたくないとの暗黙の了解があった
測定時間が長いと仕掛り品を溜めないように工程変更などの改善を行う必要性が出てきます。班長が測定時間を抽象的に表現して、課長もそれを承認したのはその根底に「面倒な工程変更を行いたく無い」との意識があり、意図的に時間単位で表現することを避けたのです。「僅かな時間」との表現で班長と課長が了承したのは「面倒な仕事を行いたく無い。」との双方の暗黙の了解があったはずです。
3.課長が現場での確認を怠った
測定時間の変更があれば、その詳細を現場で確認する必要があります。しかし、課長は現場に行かず班長の報告だけで済ませていました。これもやはり現場で確認すると、そこで発生している問題を認めざるを得ず対策する必要が出て来るからです。
私がこの3項目を糾弾すると最初は否定していたもの、最終的には反論できなくなってしまいました。そこで私は、「今後このような問題が発生しない目にどうすれば良いのか、その対策を協議せよ」と指示したのです。管理者の中には自分の仕事を増やしたくないとの意識があるために、意図的に抽象的な報告をする人がいます。報告する人、受ける人が暗黙の了解でこれを承認してしまったら、現場の問題を解決することは出来ません。このような問題が生じた場合は、双方に厳しくその点を指摘して反省させることが必要なのです。