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実践!生産革新道場:第328回:生産性向上には細かい点まで詰めることが必要だ

 

1:作業員がラインを離れて歩き出した

ある工場で新製品の立ち上げのために新しいラインを作りました。私は管理者に「この新しいラインのコンセプトとは何か」と質問したところ、「ムダを排除したラインなのです。特に間締めを徹底的に行って作業スペースを減らすことにより、ムダな動きをなくして生産性を高めるようにしたのです。今日で本格的な生産が始まって2日目なのでラインをぜひ見て下さい」と言うので、管理者と共に現場でラインの様子を観察しました。確かにムダを排除するとのコンセプトがよく分るラインとなっており、作業員の動作にもムダがありませんでした。私は作業員の様子を見ながら歩いていると、ある作業員が急に周りを見始めました。「何をしているのだろう」と思ってよく見ると、作業員は部品の入ったトレイを持って歩き始めたのです。私は驚いて後を付けて行くと、作業員は席に座っている班長に何かを話しかけて、班長と共にまたラインに戻ってきました。作業員は班長としばらく話をしたあと、班長は部品供給の担当者を呼び出したのです。私は管理者に「詳しい事情を確認しなさい」と指示したところ、次の事柄が判明したのです。

 

判明した事柄

1:作業台は省スペースを徹底しており、余計なトレイは置けないようになっていた。

 

2:そのため部品供給の担当者がタイミングよくトレイに入った部品を交換する必要があったが、担当者が早めに部品供給を行ってしまい、部品の入ったトレイを部品がまだ残っているトレイの上に置いて行ってしまった。

 

3:作業員はトレイの置き場所に困ってしまい、トレイを持って班長に報告に行った。

 

2:キッティングの作業時間を計算していなかった

私は管理者に「新しいラインのコンセプトは優れているが、作業台に余計なスペースが無くなった分だけ部品供給のタイミングが重要になる。部品を早めに持ってくれば置く場所がないし、遅れれば欠品でラインが止まってしまう。ラインの設計段階で部品供給のタイミングに付いて検討は行ったのか」と指摘しました。管理者は「もちろん検討してあります。部品ごとに供給時間をまとめたリストを作成しており、それに従って供給を行うルールとなっているのです」と答えたので、「それではキッティングを行なっている倉庫へ行ってみよう」と管理者と共に倉庫へ行きました。倉庫ではキッティング作業に追われており、部品供給の担当者もキッティングを行なっていました。私は部品供給の担当者に、なぜキッティングを行なっているのか聞いたところ「新しいラインは省スペースのためにトレイが小さくなり、部品数量が減ってしまったのです。そのため頻繁に部品供給を行うためにキッティング作業が間に合わないのです。私は早めに部品供給を行い、空いた時間でキッティングを手伝っているのです」と答えたのです。私は管理者に「供給時間のリストはキッティングの作業時間を計算して作成したのか、それとも単に生産に必要な数量を書いただけなのか、どちらか返事せよ」と詰問したところ「必要な生産数量から計算して作成しました。しかしキッティング状況を見ると現実的には無理があるようです。直ちにキッティングの作業時間を計算します」と言い出したのです。

 

3:生産性向上のためには細かい点まで詰めよ

各社とも新たにラインを作る時には、生産性を向上させるために多くのアイディアを入れて改善を行います。今回のラインも作業スペース削減をコンセプトにしており、計算上は生産性が向上することになっていましたが、キッティグの能力と作業時間を計算せずに部品供給リストを作成していたため、部品供給のタイミングにバラツキが出てムダが発生していたのです。管理者は「新しいラインの設置に追われて、キッティングの計算まで気が付かなかった」と言っていたので、今後は新しいラインの能力計算時に必ずキッティング担当者も立ち会わせることにさせました。新しいライン作りとなるとラインの設計だけに目が向きがちですが、ラインを能力通りに稼働させるためには、細かい点まで詰めて行く必要があるのです。