実践!生産革新道場:第364回:現場の班長に正しいトレーニング方法を理解させよ
1:測定器のミスで不良品が流出した
ある工場の日本人駐在員から次のような相談を受けました。「客先に出荷した製品が寸法不良でクレームとなってしまいました。返品されたクレーム品を確認すると、確かに寸法が外れていたのです。管理者に原因を確認させたところ、寸法の測定器の扱い方が悪かったので、作業員に測定方法のトレーニングを実施する、との報告がありました。
トレーニングは現場の班長が行っているのですが、正しいトレーニングを行っているのか心配なのです」私の研修でこの問題を取り上げて、担当の管理者を呼び出して詳細を説明させました。「すでに作業員へのトレーニングは実施しました。もう測定のミスはありません」「それではトレーニングの教育記録を見せなさい」「これが教育記録です」管理者が提出した用紙を見ると日付と作業員の名前が書いてあるだけでした。「この紙には日付と名前しか書いてないけど、これは一体何なのだ」「それは測定器のトレーニングの教育記録です」と言い出したので、私は驚きました。
2:班長のずさんなトレーニング
管理者は「ここに書いてある名前の作業員が教育を受けたのです」と主張するので「それは分かっている。しかしこれは単にトレーニングの受講記録にしか過ぎない。トレーニングを受けたのならば、結果の合否判断の記録はどこにあるのだ」と詰問しました。「トレーニングをおこなったあとテストを行いました。結果は全員合格でした。だから大丈夫です」「そのテスト結果を見せなさい」「トレーニングを行った班長が合否判断したから大丈夫です」私は「どのような基準で合否判断したのだ。それを証明する文書を出しなさい」と強く迫ると、管理者は言葉に詰まってしまいました。私はトレーニング行った班長を呼び出して内容を確認したところ、作業標準書も使わず口頭で説明したあと作業員に測定させ、班長が様子を見て合否判断していたことが判明したのです。
3:トレーニングの3つのポイント
このように班長や管理者が正しいトレーニング方法を理解していないと、作業員も教育内容が分からず、教育のトレーサビリティも出来ません。私は班長と管理者たちに正しいトレーニング方法を理解させるために、全員を集めて次のような指導を行いました。
1)トレーニングには「知識教育」と「技能教育」が必要である
作業のトレーニングには必ず知識教育と技能教育の2項目が必要です。知識教育は作業標準書の教育です。技能教育はその作業を実際に正しく行わせる教育です。TWI(Training Within Industry)との世界的に大変優れた手法がありますから、これを必ず応用します。
2)トレーニングは必ず合否判定が必要である。
トレーニングを行った後は、必ず知識教育と技能教育の合否判定を行う必要があります。知識教育は作業標準書の理解度のテストを行います。技能教育は今回のように測定器のトレーニングであれば、良品や不良品を測定させ、正しく測定が出来ていることを数値で評価するテストを行います。
3)トレーニングの記録は必ず残す
トレーニングを行った場合はトレーサビリティが出来るように「トレーニングの受講記録」「トレーニングに使用した教材」「トレーニングの合否判断の記録」などをきちんと保管しておくことが大切です。
班長や管理者が正しいトレーニング方法を理解していないと作業員の知識や技能が向上しないので、問題が再発することになります。班長や管理者には正しいトレーニングの方法を理解させて、それを厳守させることが大切なのです。