実践!生産革新道場:第368回:スキナー の「プログラム学習の5つの原理」を活用せよ
1:教えたつもりの悪循環を防げ
ある工場の日本人駐在から次のような相談を受けました。「前回のコラムで班長が正しい教え方の手法を理解しないまま作業員の教育を行ったため、教育効果が無かった記事を読みました。当社でも全く同じようなことが起きています。そこで管理者に班長が正しい教育を行っているか確認させようとしたのですが、肝心の管理者自身が正しい教え方を理解していません。ぜひ当社の管理者に教え方のポイントを理解させて欲しいのです」
管理者は部下を使う仕事ですから、部下の能力向上を図るために、いろいろなことを教えることが必要です。しかし教え方の基本を理解せずに教えたつもりになっているケースがとても多いのです。そのため、相手が教えた内容を理解出来ないと「いくら教えても理解しない」と一方的に相手の責任にしてしまい、自分の教え方が悪いことに気が付かないため、教えたつもりの教育を延々と繰り返してしまう悪循環に陥っているケースがあるのです。
2:「プログラム学習の5つの原理」を教え込め
正しい教育を行うときの手法は数多くありますが、米国の心理学者であるバラス・フレデリック・スキナー の「プログラム学習の5つの原理」はとても参考になる教え方です。この教え方は現在の学校教育にも大きな影響を与えています。そこで私は管理者を集めて、下記のようにこの5つの原理の講義を行ったのです。
「プログラム学習の5つの原理」
1) スモール・ステップの原理
物事を教えるときには小さなステップに分割して教えます。具体的には目標に至るステップを細かく設定して、やさしいことから教えて行きます。そしてそれが出来たら、少しだけ難しいステップに進みます。そしてそれが出来たら次のステップに進むようにします。このように小さなステップに分割して教えることにより、学ぶ側も負担が少なくて済むうえに、簡単に理解できるとの成功体験を積むことで、やる気がでて積極的に学ぶようになるのです。
2) 積極反応の原理
学習者に学習へのやる気を引き出します。よく教える側は学習者に「やる気がなくて困る」「やる気が無いから教えてもムダだ」などと文句を言うことが多いのですが、学習者のやる気を引き出すのは教える側の責任なのです。学習内容の重要性を説明したり、ステップごとに正しく理解できれば相手を褒めてやる気を引き出すなどのテクニックが必要となるのです。
3) 即時確認の原理
学習者に教えた学習内容をその場で確認します。確認時には、「分りましたか」と聞くと、相手は分かっていなくても怒られるのが嫌で「分りました」と答えることが多いのです。ですから学習者には「教えた内容を説明して下さい」「これはどのような意味ですか」と、オープンクエスチョンにして相手に答えさせるようにします。
4)自己ペースの原理
教える側は学習者の理解のペースに合わせて教えます。学習者は性格や環境により、学習内容の理解度が異なるのが当たり前です。他の学習者と比較して「あなたは理解するのが遅い」などと怒ったりせず、相手の理解度に合わせて教えるペースを調整することが大切なのです。
5)学習者検証の原理
教育の効果は学習者の理解度で検証します。教える側が自分で正しく教えたつもりでいても、学習者がその内容を理解していなければ、教える側に問題があったことになるのです。教育後は必ず相手の理解度を確認し、もし理解度が不足しているようであれば自分の教え方を修正することが必要なのです。
作業員の技術教育に有効な手法であるTWIもそうですが、このスキナーのプログラム学習の5つの原理も「学習者が理解しないのは教える側が悪い」がベースの考え方になっています。部下を教える立場の人はこの基本原理である「学習者が理解しないのは教える側が悪い」を徹底的に理解させることが必要なのです。