部下から尊敬される管理者になる手法
1:好かれる管理者を目指していた
ある企業で人事が中心となり、管理者を集めて「理想の管理者とは」とのテーマで社内研修を行っていました。研修は人事部長がファシリテーターを務めており「皆さんの部下から無記名で理想の管理者像についてのアンケートを取りました。今からその順位を発表します」と言って、正面のスクリーンにアンケートの結果を映し出したのです。人事部長が「第一位が優しくて直ぐに怒らない。第二位は部下の話をよく聞いて、意見を採用してくれる。第三は部下に公平である」と順位を発表したあと、「私たちは部下の信頼を得るために、このような管理者になるべきです。次にこのような管理者になるためにはどのようにすれば良いのか、グループでディスカッションをしましょう」とディスカッションを行わせたのです。
私はこの研修が間違った方法に進んでいるのに驚いて、すぐに止めさせました。そして次のように説明したのです「君たちが今行っているのは部下に好かれる管理者であり、理想の管理者では無い。部下から好かれているが、仕事や部下の育成が出来ない管理者と、部下からはあまり好かれてはいないが、仕事が出来て部下の育成を本当に頑張っている管理者はどちらが理想の管理者と言えるのだ」と好かれる管理者と理想の管理者が違うことを指導したのです。
2:部下から尊敬される管理者になる手法
このように部下から好かれるのが良い管理者だと勘違いしてしまうと、間違った方向に進んでしまいます。管理者には部下らから好かれるのではなく、尊敬されるようになるべきであることを理解させ、次の3項目を理解するようにします。
1)会社側の視点で考える
管理者のあるべき姿を「部下から尊敬される管理者」の視点で考えるのも良いのですが、その前に管理者が目指すべきは「会社側から見た理想の管理者になること」であるはずです。管理者は上司として多くの部下がいますが、会社はなぜ給料払って管理者に部下を付けているかをよく考えることが必要です。ここを考えることで会社が期待している理想の管理者を明確にします。
一般的に会社が求める理想の管理者とは、単純に言えば「利益を出す管理者」となります。会社は利益を上げるために仕事をしているのですから、利益を出す管理者が理想の管理者となるわけです。管理者が利益を出すためには、自分1人で仕事がんばっても限界があります。当然部下を使って仕事を行うことで、より大きな利益を出すことができるのです。これらを考えてもう少し具体的にまとめると次のようになります。「理想の管理者とは部下を育成して、やる気を引き出して、目標を達成させる人」これこそが会社が求める管理者と言えます。管理者はここを出発点として考えることが大切なのです。
2)好かれると尊敬されるは違う
理想の管理者は部下から尊敬される管理者とも言えます。このように考えた場合、管理者が仕事中に部下と長々と世間話をしたり、冗談を言い合ったりしたら部下からは好かれるでしょうが、尊敬はされないはずです。また管理者が部下に指示した内容を守っていない事を発見した場合、怒らずに注意もせずに「まぁ次からちゃんとやれよ」で済ませたら、部下からは悪い意味で好かれるでしょうが、尊敬はされないはずです。このように管理者は相手から好かれることと、尊敬されることは違うことを理解しなくてはいけません。
人間は誰でも「もっと成長したい、もっと成功体験を積みたい」との欲求があります。管理者は部下のこの欲求を上手に満たすことで、尊敬されるようになります。管理者が部下を本当に成長させたいと思ったら、ある程度高い目標を与えたり、ときには厳しく指導を行うことも必要です。部下は辛く思うこともあるでしょうが、自分が成長したと実感したり、管理者が上手に誘導して目標達成ができた時には「厳しかったけど、達成出来たのは管理者のおかげだ」と思えるはずです。これを繰り返すことで部下は管理者を尊敬するようになるのです。
3)自分の仕事を見せつける
管理者は自分の仕事を部下に見せつけて、部下から尊敬されるようになることが必要です。問題が発生したときに管理者が「こんな問題が発生してしまってついてない。これじゃ目標達成なんかとても無理だ」などと弱音を吐いたら部下はどのように感じるでしょうか。管理者がたいした仕事もせずに部下に「これもやれ、あれもやれ、もっと早くやれ」などと仕事を与え続けたら、部下はどのように感じるでしょうか。
管理者は仕事で部下から尊敬されようと思ったら、自分の仕事で尊敬されるようになる必要があります。毎日部下より圧倒的な量と質で仕事をこなすのは当然ですが、問題発生時にも冷静に判断しながら、部下のやる気を引き出していくような姿勢を見せることが大切です。彼はこのような管理者の仕事を見せつけられると「管理者の仕事は本当に凄い」と尊敬をされるようになるのです。