実践!生産革新道場:管理者は現実を建前に近づける努力をせよ
1:運搬中に製品が落下
ある工場で作業員がパレットに積んだ製品をハンドリフトで運搬中に一番上の製品が落下して不良品となる問題が発生しました。私の研修でこの問題を取り上げたため、担当の管理者に製品落下の原因を質しました。管理者は「製品の積み段数は作業標準書で3段積みと決められています。製品を落とした作業員はこれを守らず、パレットの上に4段積みにして運搬したため、不安定になり一番上の製品が落ちてしまったのです」と答えました。私は「今後の製品の落下防止の対策はどのようにしたのだ」と質問したところ、管理者は「作業員に製品の運搬時には作業標準書通りに3段積みを守るように教育を行いました」と答えたのです。「それでは現場で確認しよう」と現場に行ってみると、作業員はパレットの上に製品を4段積にして運搬していたのです。
2:ルールを守れない原因とは
管理者は「作業標準書の3段積みを守れと言ったではないか!」と作業員を怒り始めました。私は作業員に何か理由があると思い、管理者を制して作業員に「なぜ3段積みではなく、4段積にしたのですか」と聞いてみました。すると「パレットが足りないから3段積みを守れないのです。3段積みを守るとパレットが足りなくなってしまい、製品を倉庫に運搬することが出来なくなってしまうのです」と答えたのです。
私は管理者に「パレットが足りないと言っているが、本当に足りないのか」と詰問すると「パレットは客先に製品と一緒に出荷したあと、返却して貰うため、一時的に足りなくなることがあるのです」と言い出しました。「それではパレットの総数はいくつあるのか。客先にあるパレット数と自社の在庫数量はいくつか。客先からの返却予定はいつか。パレットの客先への払い出し数量と受け入れ数量の管理方法はどのようになっているのだ」と矢継ぎ早に詰問すると「パレットの数量管理を行なっていた作業員が辞めてしまい、それからは数量管理が出来ていないのです」と管理が出来ていないことを認めたのです。
3:無意味な対策会議
このように不良の原因を調べて行くと多くの問題があることが判明したのです。今回の件で私が特に重大な問題と感じたのは「管理者も作業員も建前だけで仕事を行なっている」との異常な状況でした。すなわち、管理者はパレットが足りないために3段積みが守れない状況を知りつつ、建前上は「3段積みを守れ」と作業員への教育を行いました。作業員も「パレットが足りないのだから3段積みは無理だ」と知りつつ、教育時には「はい、3段積みにします」と言っていたのです。お互いに守れないことは知っていますから、管理者が4段積みで運搬していることを見ても黙認しており、上司が4段積みの問題を指摘すると建前で作業員を注意して、作業員も建前で反省する素振りを見せるだけだったのです。
4:現実を建前に近づけろ
確かに工場管理で建前だけでは出来ないことがあるのも事実です。「確かにその通りだ。しかし現実には難しい」と心の中で思うことも多いのです。しかし、出来ないからと努力を放棄してしまっては管理者としては失格です。管理者の仕事で大事なことは現実を建前に近づける努力をすることです。パレットが足りなければ、パレットを確保できる方法を考える。3段積みが出来なければ、4段積みでも落下しない方法を考えて作業標準書を改定するなどの努力を行うことが大切なのです。