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        実践!生産革新道場:生産性向上は改善と革新を並行して行え

 

1:生産性向上を諦めていた

ある日本駐在員から次のような相談を受けました。「タイでは最低賃金が上がりコストを圧迫しています。そのため昨年から管理者に生産性向上のプロジェクトを行わせていますが、目標を達成出来ませんでした。今年こそは目標を達成しなければいけないので、プロジェクトのメンバーに新しいアイディアを出せと言っているのですが、アイディアは全て出尽くしたと言い出して困っているのです」私はプロジェクトのメンバーを集めて昨年の発表会の資料を検証しました。生産性向上のためにラインの段取り改善に取り組んでいましたが、内容は全て「新しい機械を導入する」となっていました。

 

私は「ここの箇所の機械は導入したのか」と質問するとメンバーは「業者にお願いしているのですが、導入が遅れています」と答えました。「ここに設置した機械の効果はどうなっているのか」「設置したのですが調整が遅れており、未だ稼働していません」などと、ほとんどが中途半端に終わっていたのです。プロジェクトのメンバーたちは「考えられる機械は全て導入したので、あとは機械の導入や調整が遅い業者が悪いのだ」と考えており、さらに「新しい機械を入れたのだから、これ以上の生産性向上は望めない。アイディアも出尽くした」と生産性向上を諦めていたのです。

 

2:膨大なムダを放置していた

私はプロジェクトのメンバーと一緒に現場に出て、段取りの状況を観察しました。すると、製品の段取り時に機械の担当者が部品や工具など事前に揃えておくべきものを取りに行くなどのムダが発生していました。さらに班長と作業員の協力ができておらず、班長が行うべき作業標準書の交換も作業員が機械を止めて行っているなど、膨大なムダが発生していたのです。私はプロジェクトのメンバーに「お前たちは、機械を導入すれば、生産性が向上すると言っているが、段取り時に発生するこの膨大なムダをなぜ放置していたのだ」と指摘しました。メンバーたちは「生産性向上の目標はかなり高い数値になっています。ですから小さなムダ取りではなく機械導入の方が、効果が高いと思ったのです。」と言い始めました。私は管理者が改善と革新を混同していることが分かったので、プロジェクトのメンバーと現場の管理者を集めて次のように説明しました。

 

3:生産性向上は改善と革新を並行して進めよ

「生産性向上には改善と革新の2種類の方法がある。改善とは小さな効果を継続的に積み上げて行くことであり、革新とは多額の投資や特殊な技術で飛躍的な効果を得ることである。生産性向上は改善と革新を並行して行うべき活動であり、どちらか1つだけで良いと言うのは間違いである。現状の生産性向上は革新ばかりに視点が向いており、日常管理で行うべき簡単なムダ取りなどの改善が行われていない。今後は現場でのムダ取りを中心とした改善活動も並行して行うべきだ」

 

改善は人の管理が必要となり、管理者にとっては毎日の細かい管理が必要となります。革新は自分のアイディアだけで進めることが出来るために、人によっては改善を嫌がり革新だけに走りがちなケースも多いのです。革新の結果、新しい機械や技術が導入されても、それを現場で運用するのは人ですから、日頃から人の管理が出来ていないと革新の効果を継続できなくなってしまいます。革新の効果を継続的に得るためにも、生産性向上は改善と革新を並行して行うことが大切なのです。