品質管理の基礎知識(その1)
海外でのより良い管理手法を追求して行くためには日本と相手の国の歴史、宗教、文化など全ての面から考察して行く必要があります。例えば欧米の管理手法はキリスト教の影響を強く受けていますから、その発想方法を理解するためには聖書を読まないと本当に理解することは出来ません。タイは仏教の国ですから釈迦の教えを勉強して理解しなければタイ人の発想を理解することは難しいでしょう。私自身も勉強の毎日で東洋の儒教に代表される「徳」の管理と「契約」概念の強い欧米管理手法と対比のために旧約聖書、新約聖書を読み勉強しました。今はタイ人の発想理解のために仏典に取り掛かっています。
これと平行して日本の産業の歴史も勉強していますが、この前、大変興味深い発見がありました。マニュアルによる管理と言うとマグドナルド等に代表される欧米式管理手法の代表例のように思われがちです。しかし日本の歴史を調べて行くと50年以上も前に日本の旧海軍では徹底したマニュアル管理を取り入れていたのです。
昭和16年12月の開戦の時点で旧海軍軍人は約31万名でしたが、これが17年の12月には43万名と1年間で13万人も増えています。このような膨大な数の兵士を短時間で教育して行くためには、能率の良い反復教育を行うことが必要です。そのため旧海軍には操式、教範という2種類のマニュアルを使い徹底した教育を行いました。操式とは現在の作業標準と同じもので、例えば艦砲操式では大砲を撃つための作業を標準化しており、焚火操式ではボイラーを焚くための作業を標準化してありました。この操式は作業分析を徹底的に行い、最も効率の良い作業方法と手順を標準化してあり、書いてあることをそのまま行えば完全な作業が行えるようになっていました。
また教範は操式が作業標準であるのに対して操縦方法、整備方法、心得などをまとめた実践的なノウハウ集となっていました。この操式、教範は現在のメーカーのマニュアルなどよりはるかに良くまとまっており、分かりやすかったと言われています。戦艦の場合など艦ごとに教育を行っているにもかかわらず、この操式と教範に従って作業訓練を行っているため、編隊を組んで行動した場合でも主砲の一斉射撃や最大速度の全力運転なども見事に揃って行動できたのです。私はマニュアルによる管理は戦後、欧米から導入されたものと思っていましたが、歴史を調べて行くと日本でも戦前から行われていたことが分かり驚きました。いつの時代でも優れた教材と教育手法は短時間で効率よく人材教育を行うことが出来るのです。
さて、前回までは品質管理で作業者が守るべき事柄を説明してきましたが、今回から管理者が品質管理を進める上で必要な知識をまとめて行きます。御社の社員教育の参考になれば幸いです。
品質管理で管理者に必要な手法としてはPDCAがあります。このPDCAは次の4項目をサイクル活動として回して行くことを言います。
第1段階:計画する(PLAN)
管理の目標を立てて、その目標が達成できるような計画を立てます。
第2段階:実行する(DO)
実行とは第1段階で決めた計画を実行に移すことです。計画に従い作業を行います。
第3段階:確認する(CHECK)
作業状況および品質状況の確認を行います。
第4段階:処置する(ACTION)
問題が発生した場合は是正処置を行います。各項目の詳細は次号で説明します。